水の言葉

 水面に揺れる星の電気信号が、何光年も離れているはずのわたしとあなたの間に何もないことを示している。ぴったりと隣にいるこの人との間にはたくさんのたくさんのものが挟まっているというのに。目の前の空気に触れることは、遠くの誰かと手をつないでいるのと同じだ。胸の中が振動することは、過去現在未来の天気がゆらめくことだ。赤ちゃんの笑い声がする。そのあったかい頭と小さな手。

 ピンクの花を買うことにした。雪の降る場所に引っ越すことにした。君に手紙を書くことにした。聞こえなくなっているんだ。昔みたいに聞こえなくなっている。その代わりに胸の振動を頼りにしている。繊細に感じることが増えた。波打つ感情に涙を流すことが多くなった。わたしは遠くからこの舞台を眺めている。

 後悔することばかりだけれど、なるべく笑っている。耐えられない別れを乗り越えてもなおこうして生きている。スローモーションの記憶が繰り返し上映される。言葉にするのがむずかしい。指の間から光がぽろぽろと流れ落ちる。その光が水面を揺らしてまた星との会話が始まった。「いつでも繋がれる」と星たちは言った。「いつでも聞いている」と星の奥の何かが言った。わたしの心が安心に包まれていることが何より大切だったのだ。

 わたしはいつか聴いたメロディを思い出しながら口ずさむ。同時に、スパゲティの味や、喫茶店の窓から差し込むカラフルな光や、心待ちにした君からのメッセージが届いた赤いサインや、言葉にならなかった胸の中の揺らめきが全身に蘇ってくる。あの麻のシャツを買って帰ろう。坂道をスキップしよう。わたしが帰る場所はどこだろう。

 

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